フジファブリック全曲解説「CHRONICLE」

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終わりが近づいているけれど、書く手を止められない。今日は”フジファブリック”4thアルバム「CHRONICLE」。

「CHRONICLE」全曲解説

Spotify

CHRONICLE, an album by Fujifabric on Spotify…

2009年5月20日リリース。前作までのプログレ的要素が限りなく引き算され、よりギターのサウンドに重きを置いたパワーポップ要素の強い作品となっている。録音がストックホルムであり、プロデュースに”David Myhr”を据えていることからも彼らが意図的にパワーポップ要素を取り入れたことが分かります。

前作「TEENAGER」から増したPOPにギターサウンドをかけ合わせることでパワーポップにしたのですね。今までの音楽性が好きな方からすれば驚いたことでしょう。僕も驚いた。アルバム通して3回は驚いた。

2009年12月24日にVo.志村正彦が急死したため、彼の遺作という扱いになっています。アルバムとしては前作までが外向的であったこともあり、自分を見つめ直す内向的な音楽の作り方をしています。必然的に『あの人』を想起させる曲も多く、ある意味で「志村の自分語り」のようなアルバムになっています。

それは歌詞だけでなく、作詞作曲、全アレンジに至るまでほぼ全てを志村が一人で手掛けています。志村にとっても大きな意味を持つアルバムであり、フジファブリックにとっての転換点になるアルバムだったのではないでしょうか。

オルタナティヴミュージック ウェブマガジン『ニューオーディオグラム』…

このインタビューからも「CHRONCLE」に対する志村の熱量の凄まじさが伝わります。

ぼくのイメージでは…恥ずかしいんですけど、男泣きしながら、それでも笑いながら、「しかたね~んだけど、生きていくぞ」っていう思いを、ロックンロールというツールを使って吐き出してる

1.バウムクーヘン

このアルバムを象徴する曲、「バウムクーヘン」。いつもの浮遊感のあるサウンドをかき消すように歪むギター、ブリッジミュートやリフを軸にシンプルなコード進行で進んでいく曲です。

志村の歌詞にしては珍しく『です・ます口調』で語り掛けるような歌詞です。

すぐに泣いたら損する気がして
誰の前でも見せません
でもね何だか 複雑なんです

前作「TEENAGER」で若々しくなっていると話しましたが、今作はまるで子供の独白のようになっています。それ程までにありのままの自分をさらけ出したアルバム。志村の心情や悩みを素直に歌うことで、僕らの心にもある弱い部分に染み込んでいきます。

人間は誰しも多くの矛盾を抱えていると思います。『見てほしい気持ち』と『否定されるのが怖くて見てほしくない気持ち』、『変わりたい気持ち』と『変わりたくない気持ち』、『強さ』で隠した『弱さ』…多くの矛盾を抱えるあまり、ダブルスタンダードで自ら板挟みになってしまうこともある。

共感や理解を欲していると考えてしまいがちですが、本当に大切なのは赦しを与えることではないでしょうか。自分の価値観に合わないものを赦し、自分が抱える矛盾を赦すこと。全てを包括した上で赦すことにより、初めて救われる。それによって誰かを救えるかもしれない。

「CHRONICLE」がを通して志村が伝えたいことは「バウムクーヘン」に詰まっていると思うのです。

チェッチェッチェ うまく行かない
チェッチェッチェ そういう日もある
チェッチェッチェ つまずいてしまう
チェッチェッチェ そういう日もある

2. Sugar!!

亀田誠治がプロデュースした2009WBCテーマソング、「Sugar!!」。爽やかさもありながら、やはりパワーポップ要素があります。静かに動くギターのリフ、ファズで歪ませたベース、それらを包括してPOPへと昇華させるシンセサイザー。Key.ダイちゃんの器の大きさはまさに赦しですね。さすが最年長。

フジファブリックの中でも音域が低めなこの曲をタイアップに持ってくる勇気が凄いです。しっかりとフジファブリックらしさを出しながらもPOP。

志村の歌詞にはあまり数字が使われないのですが、この曲では『36度5分の体温』と使われています。また、全体的に歌詞の繰り返しが多いのも特徴的ですね。

今何時?時計はいらない 時なんて取り戻せるからね
そうだよ 多分

言い切らない所に志村へのいじらしさを感じます。優しい人間であり、強い言葉をあまり使わない人間だったのかななんて思いを馳せてしまいます。

3. Merry-Go-Round

アルバムの中でも激しめのロックな「Merry-Go-Round」。インタビューでも答えていたような『マーシャルのJCM800にギブソンのレスポールをシールド1本だけ繋いだような音色』です。

志村のシャウトやGt.山内のギターサウンドに注目したくもありますが、一番興味深いのはDr.刃田ですね。”東京事変”のドラマーとしても有名な彼ですが、手数の多さと軽く弾けるような音がこの曲をより良いものに仕上げています。

フジファブリックはメジャーデビュー後もドラマーだけ入れ替わりが激しいのですが、個人的にDr.刃田のフジファブリックが好きです。

4. Monster

歪んだギターが心地よい「Monster」。フジファブリックらしさをぶち壊すという志村の目論見が見事に反映された曲です。

志村の歌詞の語感の良さを散々褒めていたのですが、この曲は珍しくAメロが語りのような語感のない歌詞です。「CHRONICLE」は「志村の自分語り」のようだと話しましたが、この語りもその要素です。

自分を伝えるために『です・ます口調』や『語り』を用いたわけですね。

5. クロニクル

表題曲、「クロニクル」。Aメロなんて直接的なパワーポップ要素ですね。各パートが刻み、ボーカルのメロディを目立たせる。無音の休符が心地いいです。

注目すべきはKey.ダイちゃん。Aメロのリバーブとショートディレイがかかったシンセサイザーのように、随所でフジファブリックらしさを感じさせてくれます。バランス感覚に優れたキーボードです。

歌詞は『あの人』を想ったものであると同時に、前作同様前向きさも感じさせるものになっています。

君は僕の事を 僕は君の事を
どうせ忘れちゃうんだ そう悩むのであります

ここまでは「フジファブリック」の頃のように『あの人』へのやるせなさを感じさせるものです。『どうせ忘れちゃうんだ』なんて嘯きながら忘れられない苦しさ。

キミに会えた事は キミのいない今日も
人生でかけがえの無いものでありつづけます

ラスサビ最後の一行で前向きさを感じさせるものになっています。忘れるでもなく、忘れないでもなく、今までもこれからも『人生でかけがえの無いものであり続ける』のだと言い切っています。全てを受け入れている歌詞もまた赦しです。

6. エイプリル

「クロニクル」と対になるような「エイプリル」。エイプリルとはApril、つまり四月、春です。「桜の季節」同様にやるせない別れの曲ですね。

ギターのリフもシンセサイザーのメロディも印象的ですが、やはりこの曲はボーカルが輝いています。志村の歌もまた「フジファブリック」の頃から成長しています。サビでも熱量が控えめな歌声、にも関わらず胸が締め付けられるような哀愁が漂う歌声です。だからこそCメロの感情の昂ぶりが一層伝わってきます。

また春が来るよ そしたのならまた
違う景色が もう見えてるのかな

『もう見えてるのかな』の部分で少しリズムが崩れるんですよね。感情が昂って声が続かなかったのだろうか、いずれにしてもあえて崩れたリズムのままにした。それこそがありのままの自分だったのでしょう。

神様は親切だから 僕らを出会わせて
神様は意地悪だから 僕らの道を別々の方へ

神様に感謝したくなるほどの出会いでも、どうしようもなく別れてしまうやるせなさ。神様を意地悪だと思いたくもなるのでしょうか。

真実は志村の心にしかない、もしかすると志村の心にすらないのかもしれませんが、それでも『あの人』と何があったのか知りたくなってしまいます。

7. Clock

今作では珍しく歪みの少ない「Clock」。前作までのフジファブリックらしさを感じさせるとともに、アコースティックギターに対してやはり歪んだギターのコードバッキングを重ねています。徹底的にパワーポップです。

明日になればきっと 良くなるなんて希望
持てれるものならば とっくに持ってるよ

この歌詞の韻の踏み方と、『持てれるものならば』という表現が好きです。どこか投げやりな印象を持つ歌詞が、志村の心を感じさせます。

8. Listen to the music

単純にパワーポップでは片づけられない曲、「Listen to the music」。フジファブリックらしさをぶっ壊した曲ですね。

ベースとパーカッションとアコースティックギターが中心に進んでいき、裏で怪しげな音を立てるリードやキーボード、ハーモニカと盛りだくさんな曲。その音の数はまさに音楽を聴くということそのものです。

負け犬 負け犬大統領候補の 紡ぎ出す音楽はもう
うんざりかい 踏んだり蹴ったりかい でももうちょっと聴いて

『大統領』と言うのは「Birthday」『大統領にだってなれるよ』から来ています。僕の音楽をもうちょっと聴いてくれよ、と言っているのですね。『聞いて』ではなく『聴いて』なのが志村らしいなと感じます。

9. 同じ月

隠れた名曲、「同じ月」。多幸感あふれるサウンドですが、歌詞を見ると『あの人』へのやるせなさを感じさせる曲です。

キミの言葉が今も僕の胸をしめつけるのです
振り返っても仕方がないと 分かってはいるけれど
にっちもさっちも どうにもこうにも変われずにいるよ

『あの人』からの言葉に今も囚われている、それを自覚しながらも『変われずにいる』のです。「思い出した時にだけ輝くような日常を鮮明に切り取っている」ことが魅力だと「フジファブリック」の際に話しましたが、前向きになれても囚われていることに変わりはないのだということです。そのおかげで魅力は変わらないのですが、どれほど苦しいことだったのでしょうか。 

余談ですが、この曲といいサビのメロディをベースにギターソロを弾いている曲は「茜色の夕日」といい名曲が多いですね。フジファブリック、あるいは志村が強く伝えたいメロディの時にこの手法を用いているのではないでしょうか。探してみたくなりました?

10. Anthem

パワーポップ要素の見本のような曲、「Anthem」。歪んだベースでイントロが始まり、スライドするパワーコード、ベースのルート弾き、轟音手前のサウンドからボーカルの目立つAメロへと移り変わります。

この曲もまた『あの人』への曲ですね。歌詞が非常に魅力的です。

三日月さんが 逆さになってしまった
季節変わって 街の香りが変わった

『三日月さん』という表現もまた子供のような幼さですね。また、季節の移ろいを『三日月』と『街の香り』から感じていることからも、志村の感受性を感じます。自分以外の人間がどんな時に何を感じるか知ることができるなんて、よく考えたら凄いことですよね。それでもまだ足りない、知りたいと思ってしまうのですけれど。

このメロディーを君に捧ぐ
鳴り響け 君の街まで

ここまで直接的なワードチョイスは珍しいです。それ程までに「CHRONICLE」はさらじぇだすらアルバムなのですね。直接的な描写の少なさは気恥ずかしさもあったのでしょうか。

11. Laid Back

パワーポップ要素が強く、カタカナ多めの「Laid Back」。教会の音色のようなイントロから歪んだギター、サイケな音へと一変するシンセサイザー。Bメロ前のリフなんてパワーポップ要素の見本ですよ。

歌詞にもカタカナが多く、外国かぶれのパワーポップという感じですね。

リズムに合わせて 叫ぶのさメロディー
エルビスプレスリー 顔負けのダンス!

12. All Right

ロックサウンドとシャウトが光る「All Right」。志村はライブでもよくシャウトしている印象ですが、シャウトが似合いますね。志村の熱量あふれる叫びの力強さが好きです。

歌詞を見るとロックへのこだわりと愛を感じます。

轟音 爆音 音を鳴らせばそしたら天国
騒音 雑言 それをどうとるか それは君次第

高校の時初めてバンドで合わせた時、脳に雷鳴が落ちたような衝撃でした。今にして思えば小さな部室の小さなアンプでどうしようもない演奏をしただけなのですが、音を鳴らすことはこんなにも楽しいのかと思ったことを今も覚えています。

『音を鳴らせばそしたら天国』とあるように、志村にも純粋に音を鳴らす楽しさを感じた瞬間があって、それを取り戻すためのこのパワーポップであり、ギターの歪みなのではないでしょうか。

一杯 頂戴 酒を飲まなきゃ何にも始まらん
酔いたい 叫びたい 頭振って ロックンロールで

13. タイムマシン

ピアノが美しい「タイムマシン」。個人的に凄く好きな曲なのですが、フジファブリックというよりも志村正彦のきょくだと思っています。

ボーカルとピアノ、所々のコーラスワークというシンプルな構成でありながらこんなにも胸に染みるなんて、曲が持つ力強さを感じます。本当に優しい歌い方をすると思いませんか。

欲を言えば 欲を言えば
君の声が聞きたいんだ

『あの人』への精一杯の願いは、結ばれることでも会うことでもなく、ただ『声が聞きたい』ということだけなんですよね。満足ではなく精一杯なのです。それ以上を望むことは赦されない気がしたのでしょう。このアルバムで全てを赦そうとしたが、『あの人』に対する自分の思いだけは赦すことができなかったのです。

大きな声で 歌えば届くかと
出来るだけ 歌うよ
戻れるかな タイムマシンのように
同じように 笑えるかい

『声を聞くこと』すらも赦されないからこそ、大きな声で歌うことが精一杯なんです。フジファブリック程の優れたバンドで、志村正彦ほどの素晴らしいミュージシャンになったとしてもそれが精一杯。僕らは人をついつい神格化してしまいますが、皆ただの人間なんです。

14. ないものねだり

優しくも寂しい曲「ないものねだり」。弱めではあるもののしっかりと歪んだギターが聴こえる曲です。やはりこの曲もまたボーカルが魅力ですね。

この曲もまた『あの人』への思いを歌った曲です。

あなたはいつの日も 例えば雨の日も
僕を悩ませるのでしょう
季節が変わっても 何か手に入れても
弱い生き物なのでしょう

『あの人』に囚われている志村は、時間が経って季節が変わっても、フジファブリックというバンドを手に入れても、ミュージシャンになっても、それでも『弱い生き物』なんですね。ただの人間どころか、それ以上に『弱い生き物』であると。

冒頭で紹介したインタビューで志村は「CHRONICLE」を作った理由を話しています。

誰しもが感じるちょっと後ろ向きなことを楽曲にしたいなって思ったんですよ。ある意味、そういう楽曲を作ることで消化して、辛くなくなるんじゃないかっていう希望を込めたし、当時の僕が、民生さんが”とても辛いよ”と歌う楽曲に救われたように、僕と同じように満たされない境遇にいる人たちが共感してくれたら、僕がここまでのものを吐き出した労力は報われるんじゃないかな

自分の弱さ、苦しさを理解しているからこそ、「CHRONICLE」を作った。「CHRONICLE」は「志村の自分語り」であり、「『あの人』と向き合うこと」であり、「赦し・救い」なのです。

15. Stockholm

このアルバムを作ったストックホルムを歌った曲「Stockholm」。ユニゾンしているギターやベース、静かに歌うボーカルと、アルバム最後の曲にしては淡々と進む曲です。

この曲もまた『あの人』への思いを歌った曲です。

雪が積もる 街で今日も
君の事を想う

どこにいても、いつまで経っても、想う気持ちは変わらない。志村にとっての『あの人』は、僕にとっての志村正彦なのかもしれません。彼と向き合い、アルバム全曲解説をしている今、そんなことを想いました。


まとめ

志村正彦と向き合っている今、気づいたことがあります。それは、向き合えば向き合うほどに想いが溢れてくるということです。志村正彦が関わるアルバムという意味では次の「MUSIC」が最後になりますが、きっとこれから先も志村への想いが満たされることはないし、救われることもない。ただ、志村が残してくれた音、そしてフジファブリックを噛みしめるのです。

皆様からの反響、本当に嬉しく思います。もう少しだけ見ていてくれると嬉しい。欲を言えば、これからもryu’sを見てほしいそう思っております。